後期クイーン問題から見たひぐらしのなく頃に、の続き

前回はコレね
後期クイーン問題から見たひぐらしのなく頃に
http://d.hatena.ne.jp/aukusoe/20060816/1155657957


後期クイーン問題ゲーテル問題がごちゃまぜになってない?」
との意見をいただきました、気をつけますね。


ここで言う、後期クイーン問題
名探偵を利用した事件、名探偵の存在により事件がおこる(=名探偵の苦悩)
証言を疑いはじめたら切りがない(=フレーム問題)
そもそも真実なんてどこにあるんだ(=ゲーテル問題)
の三つから構成されている、としておきましょう。

起:信じることの肯定「名探偵の否定」

誰でも信じる、ということはすなわちミステリの大原則である
「誰かを疑え」というのを否定しています。
事実、疑うことを否定する物語の作り方ですよね。
疑心暗鬼になったキャラが間違いだった、と振り返るわけですから。
それは、疑うことが義務である、名探偵を否定することになります。


つまり、前回はひぐらしが「他人を疑う名探偵」を否定しており、それは非ミステリ的である、という話でした。

承:名探偵のもう一つの役割「神(=絶対の真実)を求める意思」

ですが、名探偵に他の役割もあります、そう真実にたどり着くキャラのことでもあります。
メルカルト鮎は名探偵ですが、翼ある闇においては、木更津(そしてそれの上位にいる香月)が名探偵です。
倉知亮の星振り山荘の殺人における名探偵は序盤の彼でなく、終盤の彼女です。
霧舎のシリーズにおける、ダブル名探偵でも、やっぱり名探偵は後藤さんの方です。


名探偵は「いくつもある真実」の中から「本当の真実」にたどり着く舞台装置なのです。
またそれは、神のごとき完璧で無批判な存在でもある、ということでもあります。
なにしろ、誰にも否定されない真実、本当の真実を言った者が「名探偵」になれるのですから。


しかし、後期クイーン問題により、本当の真実に疑いがもたれる事で、名探偵は事件を見下ろす神の視点から引きずりおろされました。
名探偵を利用した犯罪計画が持ち上がり、名探偵は事件を解決する存在だのに、事件のコマの一つへと成り下がります。
これにより、名探偵は神ではなく人に成り下がります。
後期クイーン問題作品における名探偵は本来持っていた神の視点から分離してしまうのです。

転:ひぐらしの抱える謎の解答「絶対の真実も神もいない」

さて、改めてそれを踏まえた上でひぐらしをもう一度見てましょう。
裏EDやスタッフルームで作者が何と言っていたのか、を考えれば答えは一目瞭然です。


理想的な昭和五八年六月、すなわち、ひぐらしにおける謎の解答は
「君が決めるんだ」でした。
ひぐらしは、謎の解答を「理想的な昭和五八年六月」という、曖昧な物にすることにより
比喩としての真実は無数にある、でなく、事実として真実を無数に作ったのです。


あくまで、ひぐらしのなく頃には、梨花の理想的な昭和五八年六月という真実の一つでしかない。
ということだったのです。
もっと厳密に言うなら、竜騎士07の理想的な昭和五八年六月だったわけです。


ゲーテル問題を持ってくるまでもなく、真実は無数にありました。
ですが、それを認めない為に、名探偵がいたのです。
ところが、いくつもあった真実の可能性から、本当の真実を見つける名探偵という舞台装置は
無数にある真実が真実だと認めたひぐらしのなく頃に、においては必要がないのです。


そしてそれは、神の否定でもあります。
名探偵になる者が目指すべく、神のごとき絶対の真実を否定したのです。
これは、物語でも神である羽入が舞台に上がったことでもわかりますね。

結:後期クイーン問題に立ち向かうひぐらし後期クイーン問題の前提を否定」

つまり
名探偵の存在を否定(=疑うことの否定=信じることの肯定)により、フレーム問題を通り過ぎ、
それと同時に、名探偵がいなくなったことで、名探偵の苦悩がなくなり、
真実が無数にあってもいいと認めることにより、ゲーテル問題と向き合わないですんだのです。


ひぐらしのなく頃には、
名探偵(=疑うこと)を否定するだけでなく、神(=絶対の真実)すらも否定することで
すなわち、ミステリを否定することで、後期クイーン問題を解決したのです。

ここから余談、というかただの本音

当たり前じゃん。
ミステリを否定したら、後期クイーン問題を解決なんて。
そんなのただの「ミステリじゃない小説」なんだから、後期クイーン問題と関係あるわけないじゃん。


というツッコミは予想しています。
本当は
「だがしかし、肉や骨を失っても、ひぐらしはミステリの精神を失っていない
 ひぐらしはミステリなんだよ!!!!」
とするつもりだったのです。
だけで、ひぐらしってフェアプレイじゃないよね……
これで、フェアならいくらでもミステリだと肯定できたんだけどなあ……


んーそうだ、あれ、アンチミステリ。
そう、ひぐらしはアンチミステリなんだよ!
よかった、無事解決、やったね!


……正直すまんかった。