夜想:貫井徳郎

ミステリよりは大きく小説に偏った、長編小説。新興宗教を題材にしており、宗教を題材にした傑作「神のふたつの貌」とも関連付けて考えさせられる作品。
名探偵という人が人を救うガジェットを持つ本格ミステリ*1をバッサリと切り捨てるように、人が人を救うことの難しさや、そもそも自分が自分の悩みを認識できているのか、そして他人の悩みも同じように理解することができるのか? といった、非常に根本の部分から議論がはじめられていて、丁寧な展開。
この救いに関する議論があるため、真っ当な小説ではあるものの、ミステリの文脈として捕らえやすい作品だった。後日感想を書くであろう、伊坂幸太郎の終末のフールなんかはどうも無自覚的で議論が欠けていて、ミステリ読みにはつらかった。
絶望からの救済、というテーマは神のふたつの貌や殺人症候群、追憶のかけらなど貫井作品では度々描かれている。しかし、今作ほどしっかりと地に足をつけて丁寧に書き進めている作品はなかった。それだけに、オーラス付近の空中戦のトリックは蛇足感が強かった。

*1:この場合の名探偵の定義は、はやみねかおるのそれ