鷺と雪:北村薫

昭和初期の動乱の時代を描いた日常の謎系短編集。前巻にあたる、玻璃の天以上に、小説としての趣が強く、直木賞受賞もなるほどと頷ける。
それだけに、サプライズとなる大落ちが本格としては、アンフェアなのが惜しい。*1
あくまでミステリ作家であり、かつミステリとしてこの作品を書いたのであれば、何かしらの伏線を小説の内側しか知らない人間、極端な話翻訳して外人に読ませたときでも膝を打つぐらいフェアな本格ミステリを読みたかった。
六の宮の姫君のように、文学の素養がない人間でも本格として読める文学ミステリを書いていた作者だけに、昭和初期の歴史を知らない人間でも本格ミステリとして読める作品に仕上げて欲しかった。

*1:少なくとも226事件があったということを知らないと、サプライズが成り立たないため