探偵小説のためのヴァリエイション 土剋水:古野まほろ

本格ミステリ長編。普段は一行目にもっと細かいジャンルを書くんだけど、これはもうまさに「本格ミステリ」としか形容のしようがない。ロジックの丁寧さ、特に一作目に欠けていた議論の深みは物凄く高いレベルでまとまっているし、その議論も文量が大目で大満足。そして何より、解決編に挿入される下段の一口メモ。これが秀逸すぎる。
小説の形態として批判があがりそうだけど、これはもう一種の発明。わかりにくいロジックを文章で説明しこその「ミステリ小説」だろ。という批判もごもっともかも知れないが、地に足をつけたロジックを展開したいという気概が伝わってきて、そういう下らない外面への批判が言い出せなくなった。
この「本格ミステリをしっかり書きたいんだ!」という気概が半端じゃなく正しい形で伝わってきて、もう涙を流すほどに感動した。そう、僕は本格ミステリが読みたいのであって、小説なんかは読みたくないんだ! 小説としてのテーマ性だの、キャラクタ萌え萌えキュンキュンだの、考えさせられるストーリーだのはもう糞食らえですよ。
けど、そのわりには、案外小説をやろうって感じもありそうで、一筋縄ではいかない作家さんだなあ。このシリーズで言うと、ジェンダーセクシャリティの問題をやろうとしているのかな? ミステリではたびたび取り扱われるテーマだけれど、中々上手く処理している作家さんは少ないだけに、正直言って小説部分は心配*1。ただ、やっぱり、本格ミステリとしてはもう無条件に信用してしまおう。次も買うぞー!

*1:個人的に上手く取り扱ってたと思ったのは矢口敦子「家族の行方」