ANOSシリーズレビュー”空の浮動産”「記憶管理システムの意味」
起:既読文章への対処法「ループ世界」
ノベルゲにおいて、既読文章への対処というのは、避けては通れない問題でしょう。
共通パートの肥大は、ゲームの作業化を進めるだけでなく、二人目三人目のシナリオにダレが生じてしまいます。
その解決策として
1.共通パートを短くする
ToHeart以降はこの手法が多用されてる気がするのですが、具体例が思いつきませんね。
2.既読を素早く飛ばせれる
タイプムーン作品がこのタイプの究極系ですね。
クリック一つで、時間を掛けることなく一瞬で飛ばすことが出来ます。
3.既読文章を読ませることに意味を持たせる
1.が文章による解決、2.がシステムによる解決、とするなら
この3.は設定による解決です。
これは「ループ世界」という設定による、既読文章が繰り返されることへの意味付けによる解決です。
このように、ループ世界を導入することで、くどくどと既読文章をスキップすること
つまり、プレイ時間の増大により、プレイヤーと主人公に共通認識を持たせ、ループ世界そのものに愛着を持たせる。
という解決策が生まれました。
この解決法は、既読文章が多いこと自体に「ループ世界への愛着」「ループという事実」という意味づけをしたのです。
これにより、既読文章はただのスキップ対象でなく、意味をもった文章へと変わったのです。
ループ物なら既読文章が多くても問題ない。
承:ANOSの役目「既読送りとそれへの警鐘」
さて、ANOSシリーズの根底にあるのは、当然ANOSです。
ANOSは、バックログの参照や既読送りをスムーズにするだけでなく
便利なことにより、ANOSだけを使ってしまうというミスリードとしての役目も発揮しています。
シリーズでは、ANOSを使っては攻略できない謎がある。
つまり、同じ文章を何度も読ませてしまうループ世界との相性が抜群にいいだけでなく、そこにある細かな伏線にも気づけるように、文章を読み直すことも
促す、一石二鳥の素晴らしいシステムです。
その既読を送りやすいという特徴は、同じ文章を何度も読ませるループ世界が前提にあって初めて機能します。
また文章を飛ばせる、でも飛ばすだけじゃいけない、という警鐘を鳴らす役目も同じように、同じシーンを何度も訪れるループ世界でこそ機能するのです。
ANOSはループ世界でこそ力を発揮する。
転:ANOSのもう一つの面「プレイヤーと接近する主人公」
こうして、既読文章の意味づけとしてのループ世界を、さらに深み誘ったANOSですが、シリーズに唯一ループしていない作品があります。
それが、今回の「空の浮動産」です。
この作品ではその気になれば、ANOSによる巻き戻しや既読送りを一度も使うことなく、クリアすることすら可能です。
ですが、空の浮動産はANOSを導入し、シリーズ第二作という立場を持っています。
それは、ANOSがバックログ既読スキップだけを便利にしただけではないからです。
ANOSのもう一つのシステム、それが
「記憶管理システム」こと、チュートリアルモードです。
(どうでもいいが、チュートリアルじゃないよな)
このシステムの特徴は
「主人公」と「プレイヤー」がノベルゲなのに急接近することにあります。
ループ世界による既読文章への意味づけ、を考えてもプレイヤーと主人公は同一の目線には立てません。
三人称を用いない一人称ノベルゲですら、複数のルートの存在により、主人公とプレイヤーははっきりと区別されます。
それが「記憶の蓄積」の差です。
例えば、クラナドにおいて、渚が演劇にかける思いを知ったとしても、それを別のルートでの主人公は知りえません。
プレイヤーと主人公は記憶の蓄積によって差が生まれてしまうのです。
ですが、まずANOSは別のルートを作らないことにより、主人公とプレイヤーの「記憶の蓄積の差」をなくします。
その上で、プレイヤーの記憶の蓄積をチュートリアル(言葉が変)にすることで、プレイヤーと主人公の差をより縮めるのです。
つまり、空の浮動産は、ANOSの一面であるループ世界の運用を否定したものの
「プレイヤーと主人公の接近」という、記憶管理の面を前面に押し出した、と言えるでしょう。
一本道のシナリオと謎解きの強要により、システム面での
「プレイヤーと主人公の接近」を果たしたのです。
ANOSによりプレイヤーと主人公の差が狭まる
結:プレイヤーの感情移入「個性的な主人公と無個性な主人公」
これは今までのノベルゲームによる手法と比べて、遥かに画期的でしょう。
今までのプレイヤーと主人公を一体にする手法は、主人公を無個性にする、というシナリオ面による物でした。
ですが、このシステム面による接近によって「個性的な主人公」なのに「プレイヤーが感情移入」しやすいシナリオが簡単に書けるようになったのです。
この「個性的な主人公」への感情移入は、ANOSシリーズを見渡しても、個性的な一面です。
記憶管理を導入していない「あのすば」はもちろん
導入している「ロスカラ」と「だらよ」の主人公も、テーマ的葛藤を抱えているものの、個性的とは言い難い設定です。
その点、空の浮動産は「傍若無人な女キャラ」という個性的なキャラクターを主人公に据えています。
これこそが、空の浮動産の特徴と言えるでしょう。
空の浮動産は「個性的な主人公」なのに「プレイヤーが感情移入」しやすい、稀有な作品である。
あとがき:「感想、レビュー、考察、批評」の定義
なんかココ最近、純粋なレビューをしてなかったから、レビューしてみた。
どうでもいい言葉の定義だけど
感想 :好き勝手言ってる。著名人じゃない限り参考にはならない
レビュー:作品自体の解説、内容の意味づけ。役に立つ立たないは、人次第。
考察 :作品を通じて、もっと広い作品論みたいな物を語る。役に立つ立たないは、人次第だが、往々にして語っている奴らは成功していない
批評 :作品を通じて、もっと広い社会への不満をぶつける。役には立たないが、多角的な視点を養う為に目をそらしてはいけない。
心の底からどうでもよかったな。