四行ミステリ感想

万能鑑定士Qの事件簿 Ⅱ*1:松岡圭祐

エンタメ長編小説の下巻。ミステリよりはサスペンスやキャラクタに寄っている。 小説としては深いテーマもあり、社会派の様相も見せるのだが、いかんせん解釈を読者に放り投げてる感がある。 そこらへんのテーマなり物語なりに文量をかけてくれれば、軽い文…

てるてるあした:加納朋子

日常の謎物ミステリでもあって前作とは打って変わって、直球ど真ん中の短編連作小説。 幾度と無く書いてきているが、ボクは本当に家族物に弱い。その中でも今作は、限りなく満点に近いぐらいの大満足だった。 父息子物の最高峰が貫井徳郎の追憶のかけらなら…

探偵小説のためのゴシック「火剋金」:古野まほろ

ロジックが冴え渡る本格ミステリのシリーズ第五長編にして完結編。 ミステリ部分を褒め称えたいのは、当然として小説パートがさすが完結編だけあって、面白かった。 別シリーズとのリンクなのか、次回作への伏線なのかがわからなかったせいで、ラストはおい…

よくわかる現代魔法 5 TMTOWTDI たったひとつじゃない冴えたやりかた:桜坂洋

アニメ化もされたりで大人気なライトノベル長編。 今作は第一部の完結ということで、話の筋も盛り上がり、キャラクタたちのストーリーも一応の結末を迎えている。 物語として楽しめたかどうかはおいといて、キャラ立ちを狙うためわかりやすい属性をつけよう…

万能鑑定士Qの事件簿 I*2:松岡圭祐

長編ミステリ、というよりはエンタメの上巻。 力士シールをめぐるメインストーリーに、過去や未来のシーンがカットバックしてくる構成はキャラクタの魅力とあいまって効果的に作用している。 ただ、あまりにもエンタメしすぎていて小説としては今一つ厚みに…

さよならの次にくる〈卒業式編〉:似鳥鶏

青春ミステリのシリーズ第二作目にあたる、短編連作の上巻。 日常の謎の学園物で、富士見ミステリ文庫で出ていたら歴史が変わっていたかもしれないぐらい、キャラクタは魅力的だった。 物理トリックをしっかり組んでいる所や、安楽椅子探偵ではなくて調査の…

密室殺人ゲーム2.0:歌野晶午

本格ミステリ最大の魅力「議論」を徹底的に追求したシリーズの、第二短編集。 ちょっと今回は拍子抜け。本格度も確かに高いのだけれど、サプライズに力を入れすぎじゃないかな。 歌野作品でいうと「有罪としての不在」のような、ロジックとサプライズの織り…

密室殺人ゲーム王手飛車取り:歌野晶午

殺人ゲーム、と銘打たれた殺人事件を推理しあう短編連作本格ミステリ。 自分にとって”本格”ミステリとしてもっとも重要だと思っているのが、議論である。 たとえトリック自体がバカミス的であったり、小説性が薄くパズル本のようになっていても、そこに至る…

ミステリなふたり:太田忠司

安楽椅子探偵+刑事というオーソドックスなスタイルの短編ミステリ。 知識トリックや、地続きではない説明不足なロジックなど、僕が望む本格とは違った展開が多かった。 実際にそのロジックが穴の無い完璧な物であるか? が大事なんじゃなくて、その穴を潰そ…

キリオン・スレイの生活と推理:都筑道夫

奇妙な謎が、ほんの少し見方を変えるだけで理解できる。という短編ミステリの典型的な面白さが存分に発揮された短編集。 都筑ミステリではお馴染みのシモネタがオチに使われる展開と、タイトルであり解かれるべき謎が魅力的な『なぜ幽霊は朝飯を食ったのか』…

探偵小説のためのインヴェンション「金剋木」:古野まほろ

独自ルールを元にしたロジックが見所の長編本格ミステリ。 今回もロジックに関しては確かに優れている。今まで比べて、少々議論に欠けているけど自明のルールが基盤にあるから仕方ないかな。 それにしてもやっぱり、小説としての成立感が綱渡りすぎる。恋愛…

探偵小説のためのノスタルジア「木剋土」:古野まほろ

パズラーとしての高みを目指し続ける本格ミステリシリーズの第三長編。 今作もロジックによるフーダニット一本勝負。徹底的に地上戦を挑むねちっこい議論は、まさに本格。 けどこの作風は、どこまでいってもクイズやパズルの領域を超えれないんじゃないかな…

繭の夏:佐々木俊介

スリーピングマーダーと青春小説のあわせ技が見事な長編ミステリ。 海外物にめっぽう弱いため「スリーピングマーダー」というジャンルをはじめて知った。類例もぱっと思い浮かばない。貫井の追憶のかけらかなあ。*1 小説としては上手にはまっているが、ミス…

よくわかる現代魔法 4 jini使い:桜坂洋

ミステリではなくライトノベルのシリーズ第四長編。 四行「ミステリ」感想と題しているのに、どうしてミステリじゃない作品も扱うの? とか、そもそもなんで四行? みたいな疑問もあるかもしれません。 まず最初のミステリ、非ミステリの話に関しては、その…

よくわかる現代魔法 3ゴーストスクリプト・フォー・ウィザーズ:桜坂洋

ミステリではなくライトノベルのシリーズ第三長編。 今回はタイムトラベル物だが、そういったところの面白みよりもシリーズとしての伏線やキャラ萌えがほとんどだった。 弓子の啖呵を切るシーンなど、印象に残る文章は多かったか、ストーリー自体の印象は薄…

ルームメイト:今邑彩

一時ムーブメントとなった多重人格をテーマにした長編ミステリ。 オチとして使われる多重人格ネタは面白くないけど、この作品のように小説するためや、前振りとして使う分にはかまわないな。 さて、今作のミステリ的な題材はおそらく意外な犯人物なのだろう…

千年樹:荻原浩

ミステリではなく、同じ樹をテーマにすえた短編連作集。 だいたい、ミステリではないって前置きをしながらも、ミステリらしさを語るのが定番なんだけど、今回は本当に真っ当な小説。 どの短編も過去と未来の二本立てで、それらが連作の中で過去と未来が時を…

ルーガルー:京極夏彦

姑獲鳥の夏リファイン。と言うのは大げさかもしれないが、テーマ的にも設定的にもメインシリーズと地続きにある長編小説。 特に人が人を殺す理由についての議論は、京極堂シリーズから強く引き継がかれており、世界観設定とあいまって議論が一歩も二歩も先に…

よくわかる現代魔法 2 ガーベージコレクター:桜坂洋

ミステリ、ではなくてライトノベルのシリーズ第二長編。最近、創元のアンソロジーに名前を見かけるなど、ミステリ畑にも進出してきそうなので、読んだ。*1キャラクタ小説らしく、きっちりキャラクタの魅力は伝わってきた。特に二巻の主人公である美鎖は、ボ…

浦島太郎の真相:鯨統一郎

お馴染み鯨ミステリ短編集。 鯨統一郎という作家の魅力はたっぷりつまっている。無駄知識に、既存の事実の新解釈、そして意外な真実。 特に花咲爺の真相は、シリーズであることがミスリードになっていてミステリとしても完成度が高い。 ただ、その鯨統一郎の…

落下する緑 永見緋太郎の事件簿:田中啓文

ジャズを題材にした日常の謎の短編ミステリ集。 ミステリとしての完成度は、オチばかりでロジックや過程に欠けており、本格度は薄い。けれど、意外な真実が多く、単なる知識トリックだけで終わるような駄作ではない。 この小説の決め手は、やっぱりなんと言…

告白:湊かなえ

ミステリがどうのこうの、というお馴染みの文脈を使いたくないぐらい、真っ当な長編小説。 ホワイダニットが視点人物が入れ替わることで、見え方が変わってくる。確かに、この構成はミステリ的である。 だけれども、こういう複数の”人”に焦点を当てて何度も…

ミハスの落日:貫井徳郎

海外が舞台という共通点はあるものの、様々なネタを扱った短編ミステリ集。 後期クイーン問題を扱った、というミハスの落日。98年という10年前の作品だけあって、後期クイーン問題の取り扱い方も、若干の古さを感じる。*1 個人的には後期クイーン問題はSF…

ソロモンの犬:道尾秀介

どうして犬が走り出したのか? というホアワイダニットに焦点をおいた青春ミステリ長編。ではなく、普通の青春長編小説。 これをミステリと評するのはさすがに難しい。「話し合おう」といっておきながら、過去の回想ばかりでまったく議論をしない点や、読者…

田舎の刑事の趣味とお仕事:滝田務雄

刑事物なのに日常の謎を扱った変わったミステリ短編集。 ミステリとしては日常の謎物にしては、小説に逃げておらず好印象。特に「田舎の刑事の危機とリベンジ」は物理トリック一本ではあるものの、伏線が効いていて中々。 また、キャラクタ小説としては一線…

カラット探偵事務所の事件簿1:乾くるみ

日常の謎寄りの本格ミステリ短編集。 「事件簿1」という、シリーズ化を前提にしているかのようなタイトルが、ミスリードに使われているってのが斬新に感じられた。 それにしても、同性愛のストーリーだと思わせておいて、異性愛だったって展開はミステリとし…

探偵小説のためのヴァリエイション 土剋水:古野まほろ

本格ミステリ長編。普段は一行目にもっと細かいジャンルを書くんだけど、これはもうまさに「本格ミステリ」としか形容のしようがない。ロジックの丁寧さ、特に一作目に欠けていた議論の深みは物凄く高いレベルでまとまっているし、その議論も文量が大目で大…

終末のフール:伊坂幸太郎

ミステリではなくまっとうな短編連作小説。ベストはドミノ倒しな伏線回収が面白かった演劇のオール。 人類が終末を迎えるというテーマの日常物は幾つか類例があるが、個人的には終末の過ごし方をオススメしておきたい。あっそうえば蠅声の王2を結局崩せない…

夜想:貫井徳郎

ミステリよりは大きく小説に偏った、長編小説。新興宗教を題材にしており、宗教を題材にした傑作「神のふたつの貌」とも関連付けて考えさせられる作品。 名探偵という人が人を救うガジェットを持つ本格ミステリ*1をバッサリと切り捨てるように、人が人を救う…

聯愁殺:西澤保彦

いわゆる毒入りチョコレート事件物の長編ミステリ。西澤保彦ミステリ最大の魅力は、徹底した議論にある。タック&タカチしかり、チョーモンインしかり、単発SFしかり。 その議論だけで構成されたミステリが面白くないわけがない! と意気込んで読んだのだが…