四行ミステリ感想

永遠の館の殺人:黒田研二 二階堂黎人

二階堂くろけんの合作シリーズ第三長編となる、本格ミステリ。前作までのロジックにもサプライズにも寄った構成ではなく、完全にサプライズ一辺倒。 肝心のサプライズに関しても、どうしても森博嗣や石崎幸二らの似たようなトリックと比べると一歩劣る感があ…

KILLER X :黒田研二 二階堂黎人

二階堂くろけんの合作シリーズ第一長編となる、本格ミステリ。数年前に二巻を二巻だと知らずに読んでいたので、犯人は大凡想像できてしまった。 とはいえ、フーダニットが主題ではないので、非常に楽しめた。特に叙述トリックだとミスリードさせるというトリ…

モノレールねこ:加納朋子

ミステリではなくて、小説の短編集。いちばん初めにあった海以来の、ミステリ要素無しの加納朋子小説が味わえる。 家族愛を描いた作品が多く、ポトスの樹やパズルの中の犬は家族愛ってだけで涙する僕には、もう感動を通り越して拍手しながら読み終えた。 ベ…

堂場警部補の挑戦:蒼井上鷹

物語自体に仕掛けがある、ミステリ連作短編集。本格というよりは変格やメタミステリより。 連作短編集としての仕掛けに関しては評価のしようがない。このトリックのために、他の短編の出来が悪くても良いわけではないし。そもそも、トリックとしてただの作中…

サイン会はいかが?:大崎梢

本屋を舞台にした短編集。ミステリよりキャラクタ小説によった構成が見所。 知識トリックや意外な真実ばかりで、本格要素が薄かったこともあり、よりいっそうキャラクタ小説として読めた。 ミステリ界に百合展開は数あれど、ハッピーエンドを迎えた作品は非…

池袋ウエストゲートパーク:石田衣良

池袋を舞台にした青春小説の短編集。裏表紙の解説にはミステリ、とあるがどちらかと言えばサスペンスに近い。 意外な犯人物と言えなくもないが、やっぱりサスペンスというかクライムノベルっぽい、疾走感が魅力。 たまたま「俺たちに翼はない」の三編目をプ…

模造人格:北川歩実

二転三転、というよりは七転八倒な感じの長編サスペンス。思わず「いいから人の話きけよ!」とか「いやだから、どっちも証拠ないだろ!?」とツッコミたくなるぐらい、議論が議論になっていなかった。 ここ最近「本格度合いとは議論の量の多寡である」みたい…

逆説探偵 13人の申し分なき重罪人:鳥飼否宇

代わる代わるさまざまな犯罪を扱う、ミステリ短編集。徹底してミステリ要素をこれでもかと詰め込んでいるのが印象的。 短いページ数の中で、二転三転四転ぐらいしちゃう真相の転がし方のせいで、物凄いボリューム感がある。 バカミス寄りの展開も多く、濃厚…

七度狐:大倉崇裕

落語を題材にした長編ミステリ。見立てに意外な犯人にとミステリ要素は多いものの、あまりに小説に寄りすぎている。 分類としてはフーダニットを重視してるのだとは思うけれど、今ひとつ本格らしさに欠けていて、サスペンスや小説の方を強く感じる。 前作の…

探偵小説のためのエチュード「水剋火」:古野まほろ

キャラクタ小説のようでいて、しっかりと本格の文法にそっている長編本格ミステリ。 作中で揶揄されている物理トリックも、トリック自体はベタであるものの、探偵の解法や二段仕掛けのトリック、伏線のさりげなさを考えれば、クオリティは十分高い。 ただ、…

霧の迷宮から君を救い出すために:黒田研二

良い意味でも悪い意味でもバカミスっぽい、長編ミステリ。 丁寧な伏線や、密室トリックと独自設定が結びついた解明へのロジックなど、本格らしさが面白い。 それ以上にタイトルである「霧の迷宮から君を救い出すために」のアンサーがすばらしく小説している。…

9時間9人9の扉オルタナ 下:黒田研二

チュンソフト原作のゲームのノベライズ。原作に少し手を加えて、すっきりさせた印象。 原作は大掛かりな叙述トリックに加えて、多くの謎が残る展開だったが、小説版では必要最低限のガジェットでまとめられてる。 そのせいで、ミステリ要素と呼べるものがフ…

チャット隠れ鬼:山口雅也

題名の通りチャットを題材にした、長編ミステリ。 ミステリ、というよりはサスペンスのノリで、キッドピストルズやお見合いシリーズとは違いミステリ要素は薄い。 トリックも、ベタな知識トリックではあるものの、伏線がしっかりしていて旨く題材を処理して…

絶園のテンペスト 一巻:原作:城平京 構成:左有秀 作画:彩崎廉

スパイラル、アライブ、十字界に続く四作目となる城平京漫画原作の第一巻。 純粋なミステリというよりは、十字界のような終わってみるとミステリだったなあ、って感じのストーリーの予感。 名探偵に薔薇をの名探偵、スパイラルの神、十字界のヴァンパイアの…

名もなき毒:宮部みゆき

「誰か」の続編となる長編ミステリ。 なんだか今読み返すと、馬鹿にしたような感想書いてるけど、小説として深みがあって良いシリーズです。 一概に暗かったり重いテーマを扱うんじゃなくて、ほんわかした優しい空気の上で、そういったテーマを描いているか…

千年の黙 異本源氏物語:森谷明子

源氏物語を書いた紫式部が探偵役を勤める、三部構成のミステリ中編集。 ミステリ要素はあるものの、ごくごく軽い日常の謎でミステリとしては軽い。 だけれど、小説としては多くを語らない、それでいてハッキリと伝えたいことが伝わってくる強いテーマをもっ…

殺人の門:東野圭吾

殺人の当事者、加害者本人を描いた長編小説。手紙やさまよう刃とテーマが似通っていて、東野圭吾の殺人に対する哲学が一本筋の通ったものであることがよくわかる。 小説としても非常によくできていて、物語を閉めるオーラスの展開は感想を述べることがおこが…

玻璃の天:北村薫

日常の謎を扱ったミステリ短編集、というよりは昭和初期を舞台にした『小説』の趣が強い。 もうこれでもか! ってぐらい真っ当な小説でミステリ要素は非常に薄い。ただ、その小説部分がいわゆる「考えさせられるストーリー」で、お腹一杯。 けれどもやっぱり…

あなたが名探偵:アンソロジー

フーダニットがテーマのアンソロジー。シンプルな本格ミステリあり、叙述トリックありと読み所が多くお得な作品集。 ヘリオスの神像(麻耶)とゼウスの息子たち(法月)は作者が好きなだけにとても楽しめた。後者は既読だったのだけれど、意外な事実がフーダ…

晩夏に捧ぐ:大崎梢

ミステリよりはキャラクタ小説によった長編小説。 ハウダニットありフーダニットありで、ミステリ要素自体はちゃんと入っている。けれど、どうにも薄く、特にフーダニットの根拠になる「指紋を残している」って推理がどうにもロジックというか議論を感じられ…

十角館の殺人:綾辻行人

新本格を代表する館シリーズの第一長編にあたる本格ミステリ。トリックやロジックではなくて、一点特化のサプライズは今読んでも痛快。 霧越やら暗黒やらで押し出される幻想趣味はほとんどなく、ミステリ要素一本で非常に読みやすい。 たった一つのシンプル…

迷路館の殺人:綾辻行人

館シリーズの第三長編にあたる本格ミステリ。 大掛かりな叙述トリックあり、フーダニットのロジックありと盛りだくさんな内容。特に迷路を利用した道順に関するロジックや、血に関する証拠と叙述トリックを組み合わせたロジックは本格ミステリの醍醐味を存分…

水車館の殺人:綾辻行人

大掛かりなトリックが見所の館シリーズ第二長編。 十角館は同じ時間軸で違う場所の二つの視点を描いていたのに対して、今作は違う時間軸で同じ場所の二つの視点を描いている。 トリック自体はオーソドックスな記述者を疑うものだけれど、それぞれの記述者が…

仮面幻双曲:大山誠一郎

本格ど真ん中にストレートを放り込む*1、気持ちいい長編ミステリ。 前作とは違ってパズラーというよりは、サプライズ寄りのミステリに感じた。共犯者の存在のせいでフーダニットにブレがあるし、双子のトリックが犯罪の迷彩としては複雑すぎる。 ただそれで…

アルファベットパズラーズ:大山誠一郎

短編が二つと中編が一つで構成される、本格ミステリ連作集。 ベストは地続きのロジックが素晴らしいFの告発。パズラー趣向だけじゃなくて、サプライズ寄りのトリックもあって大満足。純粋なパズラーとしてはアンフェア気味かもしれないけれど、ミステリとし…

死亡推定時刻:朔立木

冤罪がテーマの社会派長編ミステリ。サスペンスとしては面白い。キャラクタに感情移入して、先が気になる。 ただ、こうやって警察や裁判所が駄目であることを告発することに、小説的面白さを感じられなかった。 家族愛辺りが小説的にはテーマになっているの…

双頭の悪魔:有栖川有栖

学生アリスシリーズの第三長編にあたる、本格ミステリ。 前作の孤島パズルはパズラーとしては最高峰で、フーダニットに至るロジックの楽しみを存分に楽しめる。それに対して今作は、その楽しみが三回もある大ボリュームが魅力。 個々の事件に関するロジック…

孤島パズル:有栖川有栖

学生アリスシリーズの第2長編にあたる本格ミステリ。 タイヤで踏まれた地図、に関する地味なロジックが最大の見所で、密室のハウダニットは作中の探偵の言うとおりどうでもいい感じ。 本格ミステリの本格部分を徹底してやろうとすると、どうしても唯のパズル…

ボトルネック:米澤穂信

SF設定を基に描かれる青春長編小説。夏季限定を読んだときに、米澤穂信という作家はいつかミステリではなく文芸畑で活躍するんだろうなあ、と漠然と想像していた。まさにこれは「青春小説」であり「小説」だ。 ミステリ要素もいくつかあるが、どれも本格や社…

月光ゲーム:有栖川有栖

有栖川有栖のデビュー作にして、学生アリスシリーズの第一長編にあたる長編本格ミステリ。 ミステリとしてはフーダニット一本ながら、ロジックによる理詰めの推理がガシっ! と決まっていて面白い。 ただ、キャラクタがあまりにも多い上、彼らがほとんど描か…